トップページ > 天声犬語(Vol.2)

♯ペンネーム  海苔の佃煮

私は随分長い間、犬界にかかわっています。
今ほどドッグショーが一般的でない時代より、出陳者からハンドラーを経て、
現在は審査員をさせていただいています。

そんな長い犬との付き合いの中で、今だから笑えるエピソードを綴っていこうと思います。
御用とお急ぎでない方は、お付き合い下さいませ。


《フィリピン審査紀行》

つい最近、私はフィリピンで審査する機会を与えていただきました。
今回はその時のお話を致しましょう。

巷の有名審査員の出張先は、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ諸国など、 先進国のドッグショー。
私の所にいただくオファーは・・・やっぱりアジア!

でも、アジアは大好き!
人は優しいし、食事も美味しい! (しかし、食あたりには注意)、何より発見が多いし!

本部からチケットが送られてきて、出発間近にせまった日、
担当してくれている女性から、

   「先生、命だけは大切になさって下さいネ!」

と・・・

(ハァ〜 またかよ。)

聞くところによると、主催クラブのスタッフは、私の迎えに空港まで来ることができず、
代わりに宿泊ホテルの従業員が、迎えにきてくれるとのこと。
例のように、私の名前を書いたカードを持って、到着ゲートで待っていてくれるそうです。

フライトは、わずか3時間半。
マニラ空港に着くと、そこは、人、人、人

しかし、どこをどう見回しても、自分の迎えが来ていない。

大きい荷物を両手に抱えてキョロキョロしていると、
男が一人、

   「オナマエハ?」

と・・・。

自慢じゃないけど、私は、治安の悪さでは「日本一!」か と言われる程の所で、生まれ育ってきた身。
犯罪の匂いは、嗅ぎ分けられるつもりです。
すかさず、

   「ヤマダです。」

と、嘘の名前を名乗りました。

すると、数分後、
「ヤマダさん」 と書いたカードを掲げ、満面の笑みで近付いて来る男が!

   「ヤベェ〜!」

私は昔の事故の後遺症で、膝がうまく曲がらず、速くは走れないのですが、
その時は30kgの荷物を抱え、タクシー乗り場まで疾風のようにダッシュ!しましたとも。

しかし、待てよ??
マニラでタクシーに乗る時は、
「客待ちの車には絶対乗ってはいけない。たった今、お客を降ろしたばかりの車に乗れ!」
と、聞かされていたっけ。


っていうか、迎えはどうしたんだっ!?(激怒)


息も絶え絶えに、タクシーに滑り込み、
ホテルの名を告げ、無事チェックインする事ができました。

数時間後、主催者と通訳が来たので、
開口一番、出迎えが来なかった事に文句を言いました。

しかし、南国特有なのでしょうか。

   「気にしな〜い♪」

という、肩透かしな返事。
苦笑いで応えるしかありませんでした。

遅刻しても気にしな〜い♪
約束やぶっても気にしな〜い♪

ん〜、ついていけんなー。


さて、私のスケジュールは、
1日目が、ハスキーのプレ・ナショナルスペシャリティーの審査、
これは、ナショナルスペシャリティーの前哨戦です。
出陳犬は、ナショナルと全く同じということです。

2日目は、全犬種ショーのベストインショー審査の予定をいただいていました。
プレ・ナショナルとナショナルは、同じ日に行うそうです。
そのナショナルを担当するのが、オーストラリアの方で、
非常にキャリアのある方だと、お聞きしました。

前日に審査員、及び関係者全員参加の食事の席をも設けていただいたのですが、
その場でハスキー展の主催者が私に、ハスキーのキャリアを尋ねたので、
私は、

   「20年くらい。」

と、返事をしました。
また、日本のハスキーが大ブームになり、
ある年のアジアインターナショナルショーでは、
アメリカのナショナルの歴代の覇者がズラ〜リと並んだ逸話などを交えて話は盛り上がっていました。

話の中で主催者が、 

   「FCI展の審査に、これまで何度立ったか?」

   「30回くらい。」 

という具合に言うと、

   「オォーッ!」

と、感嘆の声。

フィリピンでは、FCI展というと、年1回開催の特別なショーなのです。
日本でいうと、アジア インターナショナル ドッグショーを、30回審査した事になりますね。

日本では謙虚が美徳とされていますが、
ここは異国ですから、

私は皆の中で 「大先生」 になってしまったようで、
なんと!いきなり、明日のナショナルの審査は この私に!と言うのです。

ショーは明日ですよ。
カタログも出来上がって、審査員の名前も印刷されているんですよ。
なのに、今になって変更ですとぉ〜〜?!
そんなのアリですか?

やはり 「気にしな〜い♪」 の精神なのでしょうか。
そんなの 「アリ!」 だそうです。

という訳で、
オーストラリアの審査員には、大変申し訳ないことだったのですが、
本番のナショナルの審査は、私が担当させていただきました。

そして2日目、オールブリードショー。

   へ??
   私以外の審査員は、ドコ??


いない・・・。

今回のショーで、ベストインショー審査員というのは、
上から下まで、すべての犬を、1人で審査するんだそうです。
エントリーは約400頭。

   「そんなのできるわけなかとです・・・」 (涙)

でも、日本の常識は通用しない。
やるしかないでしょう。

全てのブリード審査、グループ審査、ベストインショー選出と、
終了したのは、審査を始めてから、な.ん.と.10時間後。

こんなに働いたのは、生まれて初めての事です!
散々酷使された挙句に、ギャラは一緒っ?!

   まったく納得いかんぜっ!!!
   本部に、絶対、文句を言ってやる!!!

と、心に秘め、帰路につきました。


文句を言ったのかって?

と〜んでない!
そんなこと、言う訳ないじゃないですか!

2005年10月11日




 《1》 タイ チェンマイのドッグショーにて
 《2》 フィリピンのドッグショーにて