♯ペンネーム 海苔の佃煮
私は随分長い間、犬界にかかわっています。
今ほどドッグショーが一般的でない時代より、出陳者からハンドラーを経て、
現在は審査員をさせていただいています。
そんな長い犬との付き合いの中で、今だから笑えるエピソードを綴っていこうと思います。
御用とお急ぎでない方は、お付き合い下さいませ。
《審査員は命がけ!?》

数年前の話です。
私はタイのチェンマイで開催されるドッグショーに、審査員として参加することになりました。
チェンマイは、観光地であるバンコクから、幾分 離れており、
日本人の姿は、全くと言って良いほど見かけず、
田舎の風景がまだまだ残る、のどかで、暑くて、埃っぽくて・・・
「こんな所でドッグショー?」
と、感じました。
空港に迎えに来てくれたのは、ファニーちゃん。
彼(彼女)は現地の軍人さんで、我々の通訳をしてくれるという事です。
(勿論、ファニーと言うのはニックネームです)
そのファニーちゃんの 細やかな心配りのお陰で、実に快適なオフタイムを過ごすことができたのは、今も心に残っています。
そんなオフタイムの中、タイの人々は熱心な仏教徒であると同時に、
子供から老人まで、

「男は皆、戦士である。」
という事に気付きました。
というのも、何かモメ事があると、「ムエタイ」で決着をつけるのです。
男が2人言い争っているとすれば、
たちまち人垣のリングができ、
見知らぬ人が 「サッ」 と2人の間に割って入ると、その人がレフリーという具合!
もちろん、グローブも防具もなし。
肉を打ちつける音が 鈍く鳴り、
「死んでしまう人もいるかな?」
「死んだ人は、道の端っこに、うっちゃって置かれるのかな?」
残酷な想像が駆け巡ります。
さて、
本番のショーはと言うと、想像通り、土煙の中、ブリードから始められました。
会場で、初めて自分の担当犬種を知らされたのですが、
その中にロットワイラーが・・・。
「あぁ、神様、嫌な予感がします・・・」

というのも、
「アジアのロットワイラーは結構気が荒いぞ。」と。
そんな話、聞いたことありません?
予感は当たり、
リング入りした その犬と言ったら、
頭は岩のように大きくて、
カッ と開いた口は耳まで裂け、
重戦車のような体からは、熱気というか闘気?が立ち上がって、ユラユラ見えるくらい・・・。
ハンドラーはと言うと、 チェーンの首輪を締め上げ、犬に気合い負けせぬようにと、何やらわめいているし・・・。
「あぁ、これまでか・・・。」
と、意を決して、触審を・・・・・・
そんなの できる訳ありません!
本来なら、自分で口を開いて歯を審るのですが、
ハンドラー自身に口を開けて見せるように指示しました。
と、
口に手をかけるか かけないかの所で、
ロットワイラーは、唸り声一つあげず、ハンドラーに襲い掛かったのです!!
そして、かなりの深手を負ったハンドラーは、
血を したたり落としながら、
なんと!
犬にポーズをとらせ、「さあ、見てくれ!」と云った表情で、私を睨みつけるではありませんか!
「勘弁して下さい・・・。」
と、心の中で泣きつつ、
「触審」と言っても「触るふり=vだけの審査を、どうにか済ませました。
その何秒間は、きっと、私は息すらできず、
ただ犬の 「カフーッ!カフーッ!」 という息使いだけに、集中していたのでしょう。
他の事は、何も覚えていないのですから。

ショーが進むにつれ、
「なんだか、あちこちで騒がしいぞ?」
見ると、
審査結果に不平不満を持つ出陳者でしょう、
相手はジャッジか?
勝った犬のオーナーか?
ムエタイが始まっているではありませんか!
「万が一、私の審査に不満を持ち、ムエタイで決闘を申し込まれたらどうしよう?」
私はムエタイの経験も無いし、ルールすら解らない。
「ボクシングと同じなのか?」
あらぬ想像を、巡らせていました。
バカげた話とお思いでしょうが、本人はその時、必死だったのですからね。
あ、そうそう、
件のロットワイラーですが、総合審査に出てきていました。
後のことは、どうなったのか?

私には 知った事ではありませんから!
そういえば、空港まで見送ってくれたファニーちゃん、
目に涙を浮かべて、「さようなら。」を、言ってくれたっけ。
どうしているかなぁ。
2005年7月29日
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